on 2011年9月11日 by djmagimix in イベント, Comments (0)

ネットレーベル例会(JASPM)

ポスト・パッケージ時代の音楽活動 ―― ネットレーベル現象から考える

感想とユーストリームアーカイブ上での発言の解説・訂正的なもの。

色々な意味で世の中なんも進んでないじゃん感がヒシヒシとした11日をはさんで、おととい(9月10日)は武蔵境の亜細亜大学で開催された日本ポピュラー音楽学会(JASPM)関東地区例会に行ってきました。今回の学会のテーマは「ポスト・パッケージ時代の音楽活動 ―― ネットレーベル現象から考える」というもので、同大の谷口先生が企画したもの。内容はアクチュアルで、面白かった。何よりも、フロアの最前列に当事者であるネットレーベルの主宰者数名が構え、登壇した研究者とのあいだで自発的なやり取りが生まれたのがすばらしかったと思いました。もちろん逆にそのために議論が内輪にとどまってしまったり、あるいは議論の幅を規定してしまったりということはあるかも知れませんが、それは来場者の皆さんや、ウェブで中継を見ていた皆さんの今後の判断にお任せします。

今回は、JASPMとしては初めて、試験的なかたちでウェブを使った映像中継を行いました。いわゆるユーストってやつです。ネットレーベルというテーマとの相性もよく、のべ200人超が生中継を見てくださったとのことです。ツイッターを介したオンタイムのやり取りもあり、これはこれで、こういう研究会の新しいあり方にもつながるのではないかと思います。

で、このウェブ中継ですが、アーカイブされた録画映像が昨晩から公開されています(JASPM研究担当理事という立場から申しますと、これはまだ試験的なもので、公開を停止する可能性もあります(ので、ご覧になりたい方は早めに(笑)))。この後半の部分で、私(安田)が質問している部分があるのですが、いつも通りの言葉足らずで、いま聞き直すと実に要領を得ない質問内容で甚だカタハライタイ。公開されてしまった以上、この要領の得ない質問が一人歩きしてしまう可能性があり—まあそれでもいいんですけど—もう少し私の言いたかったことをちゃんと説明しておこうと思ってこれを書いている次第。

私は、開口一番(でもないけど)、ネットレーベルは「ユートピアの実験室」だ、と言いました。ツイッター上でもこの言葉が何人かによってRTされたようですが、まず、「ユートピア」という言葉で私が言いたかったことは、必ずしも好意的な意味だけではなく、「ないもんねだり」みたいな皮肉も含めてます。さらに言えば、「ユートピアの実験室」は、ネットレーベルだけではありませんね。他にも色々実験をしている人たちがいると思います。逆に言ったら今度はそれらの実験室間の競合関係というのも目配りする必要がある。
で、ユートピアの実現、というのはポピュラー音楽(というかポピュラーカルチャー一般)に通底しているモティーフだと思うんですね。ジャズやロックでも、歌声運動やアシッドハウスでも、腐り果てたいまの社会(体制とか、拝金主義とか、メジャーレーベル)に対比される「すんごくいいんだけどどこにもない世界」の実現というのは、常に重要なモティーフであり、また、どれも常に「腐り果てたいまの社会」に回収されてしまう脆さを孕んでいる。実際、80年代のミックステープ文化やDIY文化(今井さんの発表にあったような)も、資本との危なっかしい関係を綱渡りして来た(あるいは既に回収されてしまった)。

と考えると、以下の二つの疑問が湧いてきます。

  • ネットレーベルが「ユートピアの実験室」だとして、それは、一世代前の(既に回収されつつあるような)「ユートピアの実験室」とどう類似していて、どう相違しているのか? 失敗した実験から、ネットレーベルはどんな教訓を得て、それをどういう新しい武器にしているのか?
  • 現時点で、ネットレーベルの(仮想)敵はなにで、それはどのようにしてネットレーベルを「回収」しようとしているのか? メジャーによるコンピレーションCDの発売とか、iTunes Storeのアカウント登録とか、そういうのを主宰者側はどう捉えているのか?

もう一つの大きな疑問は、樺島さんの示した図に触発されたものです。樺島さんの議論を簡単に説明しておきます。曰く、コンテンツ産業の発展は、三つの段階を経て初期の垂直統合指向から水平統合指向へと移行します。初期の第一段階では、新しい技術を基盤に事業者が新事業に乗り出しますが、この時点で事業者が掌握するのは管理レイヤー(ライセンス管理・販促など)と流通レイヤー(製造・配給)のみで、制作レイヤーは外部から調達します(レコードであれば、既に人気を得た小唄や常磐津など)。第二段階では先に上げた三つのレイヤーが垂直の統合されます(メジャーレーベルによる寡占状態)。しかし、第三段階においては、制作費の低下、ノウハウ流出などにより制作レイヤーは小規模事業者に拡散(インディー化)し、その一方では規模の経済のメリットがあるために流通レイヤーでの水平統合が進みます。これは非常に妥当な議論だと思います。

ただ、このことと、ネットレーベル的なものの浮上ということを考えあわせると、レコード産業(パッケージ時代)の成熟とともに拡散した制作者(つまりネットレーベル)は、今後はインターネットやデジタル技術を基盤にした新しいコンテンツ産業(非パッケージ時代)の第一段階におけるコンテンツ提供者となっているのではないか、という仮説が浮かび上がってくるように思います。つまり、レコード産業の成熟に伴い、逆説的にレコード会社との結びつきが希薄化したミュージシャンたちは、今度はより新しいネットを使った配信プラットフォームの方にコンテンツ提供者として接近しているのだ、と。

もちろん配信プラッフォトーム事業者も、彼らの作るコンテンツを求めています。しかしながら、ユーストリーム、YouTube、ニコニコ動画といった新しい配信サービスは、そもそもコンテンツ提供者にコンテンツの対価をバックするようなビジネスモデルでは事業を展開していないわけです(録画画像の中で、私は繰り返し「ドミューン」と言っておりますが、あれは「ユーストリーム」の言い間違いです。ドミューンやニコ生であれば、出演ミュージシャンへの謝礼は支払われていると思います)。それどころか、CGC、あるいはCGMというような枠組みで、コンテンツ提供の費用を最大限にデフレート(つまり無料化)しているわけです。

いわば、従来通りレコード会社との契約を目指して制作者になったものの、もはや制作者とレコード制作のあいだには必然的な結びつきはなくなってしまっており、自作曲を発表出来るところがある、といわれてニコ動に動画を上げたものの、いつまで経っても経済的な見返りはないと。そこで最終的に疑問になるのが以下です。

  • ネットレーベルというのは、そういう新しいCGMプラットフォームに対して、あるいはiTunes Storeのような有料プラットフォームに対して、どのような位置取りをしているのか、というのが一番知りたいことです。そのどちらにも背を向けるからネットレーベルなのか? それとも?

まあ、この辺の各プレイヤーの立ち位置を誰か整理してくれると嬉しい、っちゅう話やね。

谷口さんお疲れさまでした。→

このネタでは最初の記事ですね.

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